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コラム

第一回 ダービー(2007/1/24 ノースロンドンダービー観戦記)

 ダービー。それは同じまち、同じ地域に本拠地を置くクラブ同士の対戦。それはサポーターが一年で最も待ち望む戦いであり、最も負けが許されない戦い。負ければ次の対戦までずっとレッテルを貼られることになる。負け犬という名の。

 僕が最もダービーたるダービーの雰囲気を味わったのはノースロンドンダービー。Arsenal対Tottenham Hotspur(スパーズ)の対戦だ。北ロンドンに本拠地を構える両クラブのスタジアムの距離はわずか6kmほど。その狭い地域の中に両サポーターが住んでいるわけだ。隣に住む敵チームのサポーターにいい顔はされたくない。

 ちなみに僕はArsenalサポーターだから、その視点で書いていることをご了承願いたい。

 その日はカーリングカップの準決勝1st legで、Arsenalはスパーズのホームに乗り込むことになっている。カーリングカップというのはイングランドのカップ戦で、日本で言えばナビスコカップに当たる。そこまで重要視されている大会ではないのだが、Arsenalは若手主体で戦ってきて準決勝まで勝ち進んできたし、しかも相手は宿敵スパーズ。負けるわけにはいかない。

 僕は運よくノースロンドンダービーのAWAY戦のチケットを手に入れた。普通はノースロンドンダービーのAWAY戦のチケットなんて手に入らないのだけれど(AWAYサポーターにはわずかなチケットしか割り当てられない)、カーリングカップということもあって最後の最後で購入権が回ってきた。こんなチャンスを逃すわけにはいかない。

 イングランド=フーリガンというイメージがあるけれど、最近ではほとんどフーリガンは存在しない。少なくとも僕は見たことがない。ちょくちょくAWAYの試合にも行くけれど、Arsenalのサポーターは敵地で普通にユニフォームを着ているし、それをどうこう言う輩もいない。身の危険を感じたことはないのである。

 でも、だ。この日ばかりは違った。White Hart Lane(スパーズのスタジアム)の駅を降りると今までに味わったことのない雰囲気に包まれていた。電車を降りるやすぐに両手を広げて歌い出す若いスパーズサポーター(すぐに警察が取り押さえにかかる)。まさに映画Hooliganで見た光景だ。それだけで興奮してしまった。駅を出ても誰一人としてArsenalの赤いシャツを着ている人がいない。そしてどこか殺気立った雰囲気。ノースロンドンの薄暗さが更にそれに拍車をかける。これがダービーか。いやだたのダービーじゃない。これがノースロンドンダービーなのか。でもその殺気立った雰囲気が余計に興奮させてくれる。これから始まる戦いに向けてどんどんテンションが上がっていく。

 スタジアムのAWAYサポーター専用入り口に着いた。おなじみの黄緑色のジャケットを着たスチュアード(警備員)の数が尋常じゃない。ここに来ても一人のArsenalサポーターも歌わない。そして列に並んでいると相手サポーターの冷たい視線を嫌と言うほど感じる。でもそれが逆に心地いい。うーー、ぞくぞくする。いよいよこれから憧れのダービーの劇場へ入るのだ。

 いざスタジアム内へ。ここまで来てやっと赤いシャツがちらほら見える。服の下に隠してきたに違いない。そしてようやくチャントの大合唱。すぐさまスタジアムの300度ほどを埋める敵サポーターからのブーイング。そして我々を挑発する歌が聞こえてくる。やり返すようにこちらからも挑発の歌。このやりとりがたまらない。こうした皮肉の文化がイギリスの一つの特徴だと思うけれど、その場に応じて相手に何を歌ってやったら一番皮肉れるのか、なんて考えるのも楽しい。というかみんなそんなことばかり考えている。こういうサポーター文化はイギリスにしかない気がする。

 知っている人も多いと思うけれど、基本的にはイギリスでは太鼓は使わないし、コールリーダーは存在しない。その場の状況に応じてどこからともなくチャントが発生して、それが瞬く間にスタジアム中に広がっていく。この一体感や声が広がっていく感じがたまらないし、その場の状況に応じているから選手にも伝わるものが多いんだと思う。いいプレーが出たらすぐに拍手が巻き起こるのも素晴らしい。

 試合はというと、Arsenalが0-2から2点のビハインドを追いつきドロー。2点差を追いついたしAWAYゴールを2つも奪ったから当然騒ぐのはArsenalサポーターだ。スパーズサポーターが帰り際にこちら側に向かって罵声を浴びせていく。でも何を言われようがまったく気にならない。こちら側が勝利の雄たけびを上げるだけだ。

 しかし、そのお祭り騒ぎもスタジアム内だけの話。スタジアムの外はまた両サポーターが混じって帰ることになるからだ。AWAYサポーター出口から外に出ると、柵の向こうからスパーズサポーターの厳しい視線が一気に飛び込んできた。外でも騒ぐ一部のArsenalサポーターを警官が取り押さえにかかる。そのサポーターに襲い掛かろうとするスパーズサポーターを警官が必死に抑える。そして静観しているスパーズサポーターも口に人差し指をあて、「シーーーーッ」とやっている。でもこの緊張感がたまらない。この緊張感を味わえるだけでも、ダービーを見に来たかいがあるってもんだ。

 僕は勝利の喜びを内に秘め人混みに消えていった。またいつかこの緊張感を味わえることを願いながら。

(#14)